チーム力で獣医療・動物飼育現場の安全管理能力を高める(第1回)
- Nobuhide Kido
- 10月9日
- 読了時間: 3分

第1回:はじめに — 「人は間違える」をどう組織で扱うか(TeamSTEPPSの考え方に学ぶ)
前回は「鍵のかけ忘れ」をテーマに、動物飼育現場で大きな問題になり得る事例を、思い付きではなく、体系的に対策を考える方法のエッセンスについて、河野龍太郎氏の資料をもとに検討しました。
今回は、東京慈恵医科大学附属病院などで導入されている「TeamSTEPPS(チームステップス)」の考え方を軸に、チームで安全管理を高める方法を整理します。TeamSTEPPSは「チームの力で医療安全を向上させるための枠組み」で、動物飼育や獣医療の現場でも学ぶべき点が多く、活用していく必要性がある考え方であると私は考えています。
まず出発点として強調したいのは、「ヒトはミスをする生き物である」という前提です。人間ならではの避けられない特性を整理すると、典型的には以下のようになります。
1. 人は誰でも間違える(ミスは避けられない)
2. 思い込み、状況に左右される(先入観で判断しやすい)
3. 聞きたいことだけが聞こえ、聞いていることしか聞こえない(選択的注意)
4. 見たいものだけが見え、見ているものしか見えない(選択的視覚)
5. 記憶には限界があり、注意は維持できない
6. 正しい、安全であると思いたいための自分に都合の良いストーリーを作ってしまう(バイアス)
7. 一度「正常」と判断すると再確認をしない
これらの点はどなたでも思い当たる事柄があるのではないでしょうか。かく言う私も様々な過去の失敗事例の記憶が蘇ってきます。
これらの点は単なる「性格の問題」ではありません。人間の認知の仕組みから生じる普遍的な現象です。突き詰めると「人間はミスをする生き物である」と認識することが最初の1歩になります。そして、人はミスをする生き物であるがゆえに、そのミスを個人の責任だけに帰するのではなく、組織としてどのようにミスを防ぎ、捕捉し、リカバーするかを設計することが重要である、という認識を持つことが大変重要になってきます。
医療や動物飼育の現場で事故・ヒヤリハットが起こる主な要因
医療現場での事故やヒヤリハットを整理すると、次のようなものが挙げられます。
• 業務量の急変や過重負荷
• 疲労
• 中断や割り込み(作業の断片化)
• 複数作業の同時進行(マルチタスク)
• 観察不足・情報収集の不十分さ
• 引き継ぎ(ハンドオーバー)の不完全さ
• コミュニケーション不良(黙認・遠慮・上下関係)
• 手順・ルールの不履行
• 過度の職業的忠誠心や年功序列や職種序列に基づく抑制的文化(意見が出ない)
• 「自分だけで何とかしよう」とする考え方
• 危険性の高い作業が多い
これらの問題は医療現場に限らず、獣医療や動物飼育の現場でも極めて一般的に見られる事柄です。私が動物に関わる現場においても数々の思い当たる事柄がありました。一方で、こういった事柄を個人の責任に帰結してしまいやすい組織が多いことも事実です。しかし、これらの事柄は「個人のモラルや能力だけで解決できるものではありません!」。組織として対策が必要です。そのために重要になってくるのが「チーム力」あるいは「組織力」といってもいいかもしれませんが、本質の理解と対策の実行になります。
次回(第2回)は、組織としての対策(チームの作り方、リーダーシップの在り方)を掘り下げます。ご興味がありましたら、また来週もご覧になってください。



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