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チーム力で獣医療・動物飼育現場の安全管理能力を高める(第3回/最終回)

  • 執筆者の写真: Nobuhide Kido
    Nobuhide Kido
  • 4 日前
  • 読了時間: 6分
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第3回:実践編 — 状況観察とコミュニケーションツール


前回は組織力・チーム力を高めるために、リーダーの役割とリーダーシップを発揮することの重要性について記載させて頂きました。

第3回では、現場ですぐ使える具体策をまとめます。キーワードは「状況観察(Situational Awareness)」と「標準化された対話」です。


状況観察と共有の段階


まず、私たちは業務を行う中で様々な状況に直面し、その過程で多くの情報を得ます。個人が状況観察で情報を得る行為には以下のプロセスが含まれます。


1.           観る(Observe):環境や動物の挙動、機器の状態を積極的に観察する。

2.           解釈する(Interpret):観察した情報の意味を考え、影響を評価する。


ところが、この得られた情報が個人の中で留まってしまい、組織として情報を活用できない場面が多々あると感じています。実際、私もそのような場面に多く遭遇してきました。しかし、組織力やチーム力を高めるうえで、情報をチームで共有することはとても重要です。そこで、個人が得た情報と解釈を以下のプロセスでチームメンバーに共有することが求められます。


3.    個人が周囲やチームに情報を発信する

4.    チームで情報を共有し、状況認識と理解を一致させ、目標を共有していく


以前からよく言われているのが、「報・連・相」です。しかし、この「報・連・相」を個人の役割に帰結させた指示では、何の効力も発揮しないことは多くの方が経験してきたことではないでしょうか。観察したことをチームに伝えない(個人内で終わらせる)という弱点を克服するためには、組織が「伝えやすい・伝えられやすい」仕組みを作る必要があります。


使えるコミュニケーションツール(実務向け)

1) 2チャレンジルール(Two-Challenge Rule)

目的:安全上の懸念を伝え、無視されない仕組みを作る。

運用例:あるスタッフが「これは危険だ」と感じたら、まず1回目に率直に指摘します。それを受けた側の対応が無ければ必ず2回目も同じ主張を行う、というルールです。また、リーダーは2回目の表明を受けたら必ず応答(検討・説明・行動)する義務を設けることも大事な点になります。


場面例(動物飼育)

例えば若手職員とベテラン職員の間で以下のような会話がなされるような場面です。

若手:「このまま外で飼育しておくと熱中症が心配です。」

ベテラン:(反応がない、あるいは却下された場合)

若手:「繰り返しますが、このまま外に置くのは危険だと思います。」

ベテラン:(ツーチャレンジルールだな。この人は何か懸念事項があって言っているんだな。なにがしかの応答をしなくては。)

ベテラン職員は、これまでの経験に固執してしまい、その結果アクシデントにつながることがあります。だからこそ、自分のやり方を見直す機会が与えられたときには、積極的に他者の意見を取り入れて検討することが大切です。検討したうえで「やはり自分のやり方が最適だ」と判断するのであれば、それは問題ありません。むしろ危険なのは、経験に頼った思い込みで深く考えずに行動してしまうことです。人はそういう傾向を持つ生き物であることを認識し、意識的に立ち止まって考えることが重要だと思います。


2) CUS法(I am Concerned / I am Uncomfortable / This is a Safety issue)

目的:短い合図で即時停止・再確認を促す。

意味:「C:心配です(Concerned)」→ I am concerned.

   「U:不安です(Uncomfortable)」→ I am uncomfortable.

   「S:安全問題です(Safety issue)」→ This is a safety issue.

発言例:「ちょっと待ってください。私は心配です。」

組織やチームで上記のような発言が発信されたらチームはただちに作業を止め、状況を確認する、というルールを作っておくことが大切です。作業を一旦止めるフレーズを事前に何か決めておき、そしてそれが発言しやすい状況を作っておく必要があります。


3) チェックバック(Check-back)/ティーチバック(Teach-back)

目的:口頭での情報伝達を、情報発信側と受け手側双方が確認できるようにする

方法:指示の受け手は、聞いた内容を短く復唱して確認する。

例:

発信側:「この薬を1日1回投与してください。」

受け手側:「1日1回ですね。」

発信側:「はい、1日1回です」

口頭指示が多い場面では面倒でも必須にするとミスが減ります。これは情報発信側が自分の発信した情報が誤っていないかの確認もできるため、とても重要です。獣医療や動物飼育の現場では口頭での指示が多いため、チェックバックを日常にできることが重要になります。


4) SBAR(Situation:状況 / Background:背景 / Assessment:評価 / Recommendation:提案)

目的:引継ぎや報告の標準フォーマット化を図ることで、情報伝達の漏れを防ぎ、短く要点を伝えられます。

例:

S:○○は体温が40℃に上がっています。

B:外での運動直後に体温上昇を確認。

A:熱中症の疑いで、積極的に冷却が必要と考えます。

R:冷却処置を開始し、獣医に報告をお願いします。

シフト制で働く人が逐次変わる獣医療や動物飼育の現場では、引継ぎが重要になります。一方で、この引継ぎは個人の判断による作成が主流であるため、個人が重要と思った事柄しか記載されない傾向があります。そこで、こういった引継ぎや報告書のフォーマットを作成しておくことで、必要な情報を簡潔に伝えられるようになるので、引継ぎを作成する側も受け取る側も楽に情報を伝達することが可能になります。


導入・運用のステップ(実務チェックリスト)

以上のように実際の運用方法について簡単ですが整理しました。しかし、これらは個人で取り組むことではありません。もちろん、個人個人が努力するとは重要ですが、やはり組織ぐるみで取り組むことで初めて効果が得られる事柄になります。そこで、組織として導入するためのポイントについて簡単に記載させて頂きます。


・ トップの巻き込み:院長・場長の明確な方針表明とスタッフへの必要な権限の付与。

・ 教育と訓練:短いワークショップ+シミュレーション(ロールプレイ)でツールを体得。

・ 簡潔なルール化:2チャレンジ・CUS・チェックバックを就業規則やマニュアルに明記。

・ 日常的な仕掛け:朝のブリーフィング、夕方のデブリーフィング、安全ハドル(短い確認)を定例化。

・ 評価とフィードバック:ヒヤリハット報告の分析、月次での事例共有、改善策の追跡。

・ 環境整備:発言しやすい雰囲気作り(匿名報告、心理的安全の確保)。


これらの点を少しずつでよいので、組織として取り組んでいけると、組織力・チーム力が高い現場が構築できると考えます。


今まで述べてきた根底にあるのがコミュニケーションの重要です。一方で、コミュニケーションをする際に気を付けた方がよい四つの要点があることも最後に述べさせていただきます。


1.           完全であること:重要事項が漏れていないこと。

2.           誰にとっても理解しやすいこと:専門用語の多用を避け、共通の言葉で伝える。

3.           簡潔であること:無駄を省き、要点だけ伝える。

4.           タイムリーであること:必要なときに必要な情報が届くこと。



最後に

人はミスをする生き物だと認めたうえで、組織としてミスを補完・早期発見する仕組みを設計することが安全管理の本質です。今回紹介したツールはシンプルですが、継続して運用することに意味があります。チーム全員で「私たちが守る」姿勢を作ることが、最も強い安全対策になります。


必要であれば、今回の内容を皆様の組織にお伝えし、導入するご協力も可能です。ご希望があれば遠慮なくお知らせください。


 
 
 

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